流離のトレーナー
イッシュ地方 編

どれがいい?と尋ねられたコウの目の前にはボールが3つ。

「あの?」
「ジムバッジを集めるんでしょう?それなら、ポケモンが必要だわ」
「でも、私にはこの子がいますし…」

そう言ったコウの腕の中にはタマゴがある。
もうすぐ生まれそうなのか、動く頻度が日に日に高くなってきていた。

「生まれるまでのパートナーは必要でしょう?」
「そうですけれど…」
「だって、コウちゃん…すぐにでも出発しそうな表情よ?」

図星をつかれたコウは思わず口ごもる。
そんな彼女を見て、アララギは得意げに微笑んだ。

「こういう時は、ありがとう、でいいのよ」
「…じゃあ、そうします。………アララギ博士、ありがとうございます!」
「よし!じゃあ、好きなポケモンを選んで」

再び差し出された、台の上の3つのモンスターボール。
見た目だけでは中身がどんなポケモンなのかはわからない。

「このボールが―――」

中のポケモンを説明してくれようとしたアララギの言葉の続きを手で制する。
そして、コウはその手でモンスターボールに触れた。

1つ、2つ、そして3つ。
全てのモンスターボールに触れ、やがて最初に触れたボールを手に取る。

「この子にします」
「…中のポケモンを見ておかなくていいの?」
「はい」

迷いのない目に、アララギは心中でへぇ、と感心した。
ジムバッジを集めることは、決して簡単なことではない。
しかし、彼女はそれを「折角だから」と言っていた。
そんな風に言えるのは、世間知らずか、言葉に見合う実力を持っているかのどちらかだ。
彼女は、おそらく後者だろう。
現に彼女は、知識だけでは説明できない感覚により、パートナーを選んだ。

「おいで」

緩やかな動作でボールを投げる。
赤い光が地面に着地し、ポケモンが姿を見せた。
緑色の身体と、クールな目元が印象的なポケモンだ。

「はい、どうぞ」
「これは…」
「ポケモン図鑑よ。詳細の説明は不要よね」

アララギの言葉に頷き、図鑑をポケモンに向ける。

「ツタージャね」

説明を一通り読んだコウは、ツタージャを抱き上げた。
目元や、シニカルに笑みを浮かべる口元が、誰かを思い出させる。

「私はコウよ。一緒に世界を見て回ろうね」

目線を合わせ、自己紹介。
コウにとってのポケモンは道具でもペットでもなく、共に戦うパートナーだ。
そこに必要なのは確固たる絆。
今まで、その第一歩を踏み外したことはない。
そして今回も、絆の一歩目はしっかりと踏みしめられた。













『コウくんか?もちろん、知っておるよ。今はシンオウを旅しとるはずじゃが…』
「いえ、彼女はイッシュにいます。色々と事情があるようですが」
『なんと!?まぁ、良いじゃろう。で、コウくんはどうしておるかね?』
「ポケモンとポケモン図鑑、そしてタウンマップを渡したら、早速旅立っていきましたよ」
『そうかそうか。レッドと言う少年は一緒だったかね?』
「いいえ。どうやら離れてしまっているみたいです。こちらに向かうようですが」
『ふむ…確か、定期便が事故で止まっておったの。復旧には暫くかかるじゃろう』
「そう言えば…そうでしたね。ところで、彼女は一体?」
『おお、そうじゃったな。彼女は二番目に強いトレーナーじゃよ』

「…二、番目?」
『うむ!そのレッドと言う少年は、数多のリーグの最高峰、カントーリーグの真のチャンピオンじゃ。
その彼に勝ったこともある。次からはコテンパンにされていると落ち込んでおったわい』
「あの子が…」
『ちなみに、コウはホウエンとジョウト、カントーを制覇しておるよ』
「…そうですか。納得できました。あの子は、とても強い目をしていましたから」
『そうじゃろうて。大丈夫じゃろうと思うが…何か困っておったら助けてやってくれ』
「ええ、もちろんです」















1番道路をてくてくと歩いていく。
途中に何度か草むらを超えてきているけれど、何の支障もない。
腕にタマゴを抱き、傍らにツタージャを歩かせながら、進む。

「君はいつになったら生まれるんだろうね」

もう少しだと言う事はわかる。
コウの言葉に応えるように、タマゴが腕の中で揺れ動いた。
その反応に小さく笑みを浮かべたところで、草むらからポケモンが飛び出してきた。
先ほどから幾度となく出会っているポケモン、ヨーテリーだ。
既に一度捕まえ、逃がしてあるポケモンでもある。

「…どこかで見た顔だね」

隣を歩くツタージャに指示を出す前に、じっとヨーテリーを見つめるコウ。
そこで、あ、と気付いた。

「君、さっきのヨーテリーか」

道理で、と納得し、それから苦笑した。
ツタージャに指示を出すのをやめて、控えめに前にたたずむヨーテリーの前に膝をつく。

「ボールの中で暮らすより、外の生活の方が向いてるよ。思い切り走り回って、元気に育てばいい」

きっと、逃がされたことが不思議だったのだろう。
コウと言う人間を知るべく、近付いてきたポケモン。
今までにも何度かそう言う事があった。
その度に、こうして優しく宥めて巣へと帰している。
もちろん、一緒に行きたいと言うポケモンならば仲間にしたこともある。
今回は、前者だったようだ。
気になってしまって追いかけてきたけれど、やはり住処を離れるのは寂しくて。
コウを振り向きつつ、ヨーテリーは草むらの奥に消えていった。

「ねぇ、レッ―――」

“いつものように”話しかける。
誰もいない隣を見て、ハッと我に返った。
自分の行動に思わず苦笑すると、ツタージャが不思議そうな表情で首を傾げる。

「君はまだ会った事ないけど…私にはね、とても大事な人がいるの。すぐに会えるから、その時に紹介するね」

その場にしゃがみ込んでツタージャとの目線を近くし、そう話しかける。
全てを理解しているわけではないのかもしれないけれど、ツタージャは納得したように頷いた。

「それまでに強くなって、レッドを驚かせようね」

そう言ってツタージャの頭を撫で、止めていた足を動かして道路を進む。
一つ目のジムの町、サンヨウシティまではもう少しだ。

11.04.16