隠れ島のブリーダー

庭でゆっくりと過ごしているはずのコウの手持ちのポケモンたちの姿が見えない。
イーブイの世話が一段落した彼女がそれに気付いたのは昼過ぎの事。
一匹や二匹欠けているだけなら気にしないのだが、全員が不在だ。

「…ルカリオ、皆はどこ?」

いつもと変わらずコウの傍で手伝いをしてくれていたルカリオを呼ぶ。
彼は顔を上げ、周囲に意識を向けた。

『砂浜の方に波動を感じます。他にも誰か』
「…また遭難者かしら」

そう呟き、ルカリオに案内を頼もうとした。
しかし、ふと考えたコウは、持っていたものを置いて立ち上がる。

「迎えにいこうか」
『はい』

そうして、ルカリオを連れて砂浜へと向かう。














バリバリ、と電気系の技の音が聞こえ、コウは眉を顰めた。
どうやら、穏やかではない状況になっているらしいと憶測する。
手持ちのポケモンは、基本的に主人の指示なく動かない。
主人のレベルが伴っていない場合を除いては。
コウに限ってレベルが伴わないということはなく、彼女の手持ちは従順だ。
けれど、島での自由を許すにあたり、危険を感じた時は思うように行動していいと言ってある。
それは、彼らを守るための約束。

「急ぐわよ、ルカリオ!」

ゆったり歩いていた足で地面を蹴り、速度を上げて走り出す。
南国の木々が並ぶ道を抜け、砂浜へと出た。
そこにいたのは少年一人、少女一人、そしてポケモンたち。
バトル真っ最中と思しき状況を見たコウは、指を唇に添えた。
ピュイィと高い指笛が響き、彼女のポケモンが反応する。
振り向き、彼女の姿を捉えるなり、飛んで、あるいは砂浜を走って彼女の元へと馳せる。

「皆、いい子ね」

擦り寄る彼らの頬を撫で、彼らを後ろに従えて訪問者を見る。
少年少女二人は、ぽかんとした様子でこちらを見ていた。
サクサクと砂を踏み、彼らの元に近付く。

「さて…とりあえず、お互い一時休戦にしようか。ほら、ピカチュウも電撃を弱めて」

足元で臨戦態勢のまま頬袋をパチパチさせていたピカチュウ。
彼女がピカチュウの頬をくるくると撫でると、溜めていた電気が拡散された。
自分の身に起きた状況に、ピ?と首を傾げて頬に触れるピカチュウ。

「あ、あの…」

ぽかんとその様子を見ていた少年が、恐る恐る口を開いた。

「心配しなくていいよ。軽いツボ押しで電気を飛ばしただけだから」
「そう…ですか」

そんな事ができるのかと驚いた様子の少年。
彼の隣で、少女が、感心してる場合じゃないでしょ、と言った。

「あの、あなたは?」
「私はコウ。ここは隠れ島。潮の関係でそう簡単には来られない島なんだけど…最近客が多いわ」

潮の流れが変わったのかしら、と呟く。

「私はヒカリです!こっちは…」
「あ、俺はサトシ。こいつは相棒のピカチュウ」

ハッと我に返って自己紹介したサトシは、足元のピカチュウを抱き上げた。
ピカ、と片手を挙げて返事をするピカチュウは可愛い。
コウは表情を緩めてその頬から顎を撫でた。

「所で、どうしてこの子達とバトルを?見たところ…レベルが違いすぎると思うけれど」

ピカチュウ、そしてヒカリが腕に抱くポッチャマを見てそう告げる。
コウが鍛えた手持ちとはかなりレベルの差があるように見えた。

「えっと、それは…」
「サトシが悪いんです!砂浜であの子が遊んでるのを見て、野生だと思って捕まえようとしちゃったから…」

説明を躊躇ったサトシの隣で、ヒカリがそう話してくれた。
あの子、と言うのはサンダースの横でビクリと身を縮めている小さなイーブイ。
コウが育てているイーブイで、本来ならば他の仲間と庭で遊んでいるべきポケモンだ。

「あぁ…それでこの子達が怒ったのね」

この島に野生のポケモンは居ない。
自由になっているものは全てコウの手持ちか、育てているイーブイだ。
それを捕まえようとすれば、彼らが敵と見なすのも当然の事。
好戦的ではない彼らがバトルしていた理由が、漸く理解できた。

「すみません!俺…」
「いいわよ。この子達ももう怒ってないから。ところで、二人はどうやってここに?」

今更だが、それを尋ねると彼らは顔を見合わせた。

「それが…鋼鉄島に行こうと思ったんですけど…大波で船から投げ出されちゃって」
「あら…災難だったわね」

生身の身体で潮に流されるのは大変だっただろう。
潮に乗れば確実にこの島に辿り着くけれど、それでもポケモンと逸れなくて良かった。

「うちへいらっしゃい。疲れたでしょうから、ゆっくり休むといいわ」

例のイーブイを抱き上げ、来た道を歩き出す彼女。
今一度顔を見合わせた二人は、やがて彼女の背中を追って歩き出した。










「このルカリオ、コウさんのルカリオですか?」

家までの道中、ヒカリがコウの隣を歩くルカリオを指してそう問いかけた。
そうよ、と答えると、ルカリオの視線がヒカリとサトシを見る。

「ルカリオって野生では見ませんよね」
「俺達もゲンさんの時以来だよな」
「ゲン?」

覚えのある名前が会話の中に出てきた。
思わず口を挟むコウに、サトシが知ってるんですか?と尋ねる。

「ルカリオを連れた青いスーツの男の人なら知っているわ」
「そう、その人!」
「あら、知り合いだったの。彼なら…そうね、今日辺り、来るんじゃないかしら」

前に来た日を思い出し、そこからの日数を頭の中で数える。
恐らく、彼は今日明日のうちに顔を見せてくれるだろう。
本当!?と嬉しそうに顔を輝かせたサトシに、コウは笑顔で頷いた。

「ピカチュウを連れた少年、か…」

随分前に、彼が話してくれた事を思い出す。
良いトレーナーに出会ったと言った彼に、珍しく会ってみたいと思ったのはコウだった。
不思議な縁で巡り合った件のトレーナー少年、サトシ。
さぁ、どんな話が聞けるのか。
期待に笑みを浮かべた。

10.05.04