Questionシリーズ
Destiny Side story
Question:神田とラビ、どっちが恐い?
「そんな質問、答え決まってますよ」
質問するまでも無い、とコウはアズの背の毛並みに櫛を通した。
ブラッシングの最中を邪魔されたと言う事もあり、アズは不機嫌そうに質問してきた人物を見る。
その目つきがどこか獲物を見るようなそれで、彼…コムイは口元を引きつらせた。
「やっぱり?まぁ、コウちゃんならもしかしたら―――と思ったんだけど…」
「この本部の中で、後者だって答える人が居たらある意味勇者ですね」
と言う事は、やはり彼女の答えも前者―――つまりは、神田、と言う事なのだろう。
彼女の言い分も尤もだ、とコムイは思った。
これは、別に差し迫った質問でもなく、ただ何となくとっていたアンケートの一部だ。
エクソシスト同士のペアを決める際に役に立てば…と考えている。
他のエクソシストならば適当に質問表を配布して後日回収、としておくが、彼女に限りコムイが直接やってきた。
理由は、この質問の回答が気になったから、とでも言っておこう。
「ま、神田だって恐いと言うほどじゃないですけど」
ねー?と膝の上のアズに問いかける。
彼もそれに同意するように尾を振り、彼女の頬をぺろりと一舐めした。
そんな行動にコウは「可愛いっ」とその首に抱きついた。
苦しいほどに抱き寄せない当たり、まだ少しは理性が残っているものと思われる。
動きが制限される事は嬉しくなさそうだが、抱き寄せられる事はまんざらでもないらしい様子のアズ。
満面の笑みでその白い毛並みに口元を埋めるコウ。
そんな二人(一人と一匹)を前に、コムイは質問の続きはいつになるだろうかと苦笑した。
コムイとの話を終えたコウは、少しばかり遅い昼食を取っていた。
時間で言えばすでにおやつの時間と言っても差し障りは無い。
それ故に、食堂に人は無く、閑散としていた。
「コウ発見」
食堂の入り口からそんな声が聞こえた。
コウとアズの視線を受け、声の主ラビは軽く手を上げる。
それに答えるように、彼女はにこりと微笑む―――が、ラビの笑顔にどこか違和感を覚えた。
表面は満面の笑みだ。
それなのに、何故かこう…寒気のようなものを覚える。
「ラ、ラビ…?」
ニコニコと、笑顔の彼が近づいてくる。
何故だろう、無性に逃げ出したくなった。
コウと同じ事を考えているのか、アズが盛んに彼女のコートの裾を引く。
まるで、早くこの場から立ち去ろう、とでも言っているようだ。
アズの行動にコウがコクリ、と頷き立ち上がる。
「どこ行くんさ?」
―――遅かった。
すぐ傍らに来ていたラビに腕を掴まれ、コウは彼を見上げる。
思わず、ヘラリと笑顔を浮かべてしまった。
とりあえず、笑って誤魔化せという感じだ。
「いや、あの…コムイさんに呼ばれてたのを思い出して」
「へぇー。コムイから、渡されたんだけど?」
そう言って、ラビはコウの腕を掴んでいない方の手で何かを揺らす。
紙袋の中に入っているものが何なのか。
それを彼女が知る由もないが、彼がコムイと会っていると言う事が問題だった。
探されていないのが丸分かりではないか。
「あー…部屋に戻ろうかと。ほら、次の任務が夕方からだから、仮眠でも取っておこうかと思って」
「コウ?」
「…ハイ」
誤魔化すな?と目が語っている。
それを悟り、コウは逃れる事を諦めた。
アズの牙を頼りにこの場を切り抜けるという事は、もちろん可能だ。
しかし、運の悪い事に、今日の任務のパートナーは彼。
アズを仕向けておきながら仲良く任務、と言うわけにはいかないだろう。
コウに残された道は、出来るだけ早い段階で彼の心を穏やかな状態に戻す―――つまりは、諦める事だった。
「で、私…何かした?」
とりあえず、あのままでは食堂にやってきた人たちが回れ右して帰ってしまうだろう。
そう言ってラビを宥め、何とか部屋まで連れてくることに成功した。
逃げ場の無い密室だが、すでに諦めた彼女からすれば場所はどこでも同じ。
それならば、出来るだけ人目の無いところの方が色々と好都合だった。
コウの問いかけにも答える事無く、彼は笑みを浮かべてベッドに座っている彼女を見下ろす。
その笑顔と言えば、最近エクソシストの仲間入りをした某白髪少年を思い出させる。
「覚えない?」
「ええ、全く」
濡れ衣であったならば今までの怯えが無駄になる。
きっぱりと言い切った彼女に、ラビは更に笑みを深めた。
こめかみに青筋が立っているように感じるのは、恐らく気のせいではない。
「んじゃ、これで思い出せるだろ」
そう言うなり、彼は何かを取り出した。
素早く振り上げられたそれが何であるかを理解できないうちに、それはコウの頭上に振り下ろされる。
ピコーン!!
「~~~~っ…ピコピコハンマー…?」
ズキズキと痛む頭を抱えながら、コウは彼の手に握られたそれを見た。
拳二つ分ほどの大きさのそれの形を見間違う事など、まずありえない。
人を傷つけないように設計されているはずのそれ。
しかし、渾身の力の前には流石の安全も無意味だったようだ。
「思い出したか?」
「あー…ハイ」
痛みと共に帰ってきた記憶に、コウは素直に頷いておく。
同時に、自分の仕出かした“コト”に口元を引きつらせた。
「一週間ぶりの任務だからイノセンスを調整しておこうと思ったら…やっぱ、コウの仕業か」
「あはは…」
「で、いつやったんさ?」
「三日前の喧嘩の時に。気が済めばよかったから、見つからないうちに直しておくつもりだったんだけどね…」
すっかり忘れていた。
そう言って乾いた笑いを零した彼女に、もう一度ピコン!とピコピコハンマーが振り下ろされる。
流石に、今度は痛くない程度に力を調節してくれていた。
「ったく…。直るんだろ?」
「ダイジョブダイジョブ」
「大体、イノセンスを別のモンに変えられるなんて、聞いてないさ」
「あの時は無我夢中だったからね…今やれって言われても、多分無理」
「………本当に直るんだろうな」
コウの言葉に不安を覚えたのだろう。
ラビの怪しむような視線が彼女へと向けられる。
「直らなかったら笑えるね。アクマを前にピコピコ槌を振るうラビ」
想像すると、笑ってしまいそうだ。
思わず口元を隠した彼女を、本日三度目のハンマーが襲った。
「…コムイさん。前のアンケート、一部修正してもらえます?」
「いいよー。どこ?」
Question:神田とラビ、どっちが恐い?
Answer:普段怒らない人の方が怒らせたら恐いっての!!
06.12.16