星降る夜の集い
Destiny Side story
「誕生日って今日だけど…知らなかったんか?」
ラビの言葉は爆弾発言となり、その場に沈黙をもたらした。
「ホント…に?」
「うん。本人から聞いたからホント」
「…………兄さん!コウさんの誕生日パーティーしよう!!」
先程コーヒーカップを載せて運んできたトレーを自身の前に持ち上げながらリナリーはそう提案する。
彼女の言葉を受けたコムイは科学班の皆を一瞥した。
皆、自身の仕事を見つめた後、この程度ならば問題ないだろうと頷く。
「…最近あまり嬉しくないニュースばかりだからね。少しは景気付けに騒ぐのも悪くないだろう」
「じゃあ…!」
「リナリー、ジェリーに話をつけておいてくれないか?ありったけの食事を用意してもらうように」
そう言って笑ったコムイに、リナリーは顔を輝かせて了解!と声を上げる。
見よう見真似にコウのように敬礼のポーズを取った後、彼女は自慢の俊足で部屋を後にした。
「ラビ、コウちゃんはいつ帰るんだっけ?」
「さっき連絡来たから、多分あと3時間くらい。準備間に合うかー?」
「間に合わなくても皆で持ち寄れば大丈夫だろうね。じゃあ、仕事は中断!
それぞれパーティーの準備に掛かるように!不参加者は別にそのまま続けてくれても構わないよ」
強制するつもりはないから、そう言うとコムイは手に持っていたペンを机の上に置いた。
頭を痛めるような内容の文章ばかりが並ぶ仕事に背を向け、今日だけはそれを忘れようと思う。
偶には休息日も必要だろう。
いい切欠だったのかもしれない、と彼は俄かに活気立つ室内で口元を持ち上げた。
「Happy Birthday!!」
疲れた身体と共に本部へと足を踏み入れるなり、目の前に虹色が舞った。
耳をついた音はすでに無く、自身を囲む人の壁は皆目を弓なりにして笑みを浮かべる。
きょとんと目を見開き、コウは自身の服についた色とりどりの紙ふぶきのうちの一つを持ち上げる。
「あぁ、そう言えば誕生日だっけ」
三日間任務で忙しかった故に、日付を気にしている余裕が無かった。
クラッカー音と共に迎えられた内容を悟るまでに暫しの時間を要し、そのあと彼女は微笑む。
「…コウさん反応薄いね」
「あはは…ごめんね。でも、ありがとう」
別の日にした方がよかった?と首を傾げるリナリーの頭を撫で、コウは止めていた足を動かす。
一人ひとりに笑顔でお礼を述べ、とりあえず荷物を置くべく自室へと向かった。
その間にもパーティーの準備は進む。
夕食の時間帯より少しだけ遅くずらした今、コウの誕生パーティーとは名ばかりの宴会が開かれていた。
この場には普段コウを可愛がり、慕っている面子が揃っている。
騒がしいのは嫌いだと不参加を決め込んだ者も居るが、それでも結構な人数がその場に集まっていた。
それぞれがグラス片手に騒いだり、はたまた静かに言葉を交わしたり。
今回の主役として特等席を用意されていたコウも、進められるままにグラスを傾けた。
とは言え未成年なのでもちろん中身はジュースだ。
「コウさん、誕生日おめでとう」
後ろからぎゅうっと抱きつくようにしてリナリーが彼女に祝いの言葉を述べる。
彼女の頬は少しばかり赤らんでおり、にへらと締まり無い笑顔を浮かべていた。
それを見て、コウは彼女の手にあったチョコをつまみ上げて自身の口の中に放り込む。
「誰よ、ブランデー入りのチョコなんか用意したの…」
どこからかき集めたのか、結構な量のお菓子やコックによって用意された食事がテーブルを埋め尽くしている。
恐らく集められたお菓子の一つなのだろう。
「リナリー、もうそのチョコ食べないようにね」
「はぁーい」
「……っていうか、チョコのブランデーで酔う人って居るんだね」
ふらりと立ち上がるとリナリーはコムイの元へと駆けていく。
抱きつく人を選んでいる辺り、まだ一応見境はあるらしい。
そんな彼女を見送り、コウはまた食堂内へと視線を向けた。
初めの頃こそ自身の周囲は祝いの声を掛けてくれる人達で賑わっていた。
だが、少し疲れているようだからゆっくり出来るようにと彼女を囲わなくなっているのは暗黙の了解のようだ。
恐らく、自室に戻るといっても誰も引き止めたりはしないだろう。
賑わう皆を見つつ、こうして騒ぐのも悪くは無い…とコウは考えていた。
「お疲れさん」
彼女の思考を遮らないような絶妙なタイミングで掛かった声。
顔を隣へと向ければ、一口分のジュースの残ったグラスを片手に持つラビが居た。
彼に「お疲れ様」と言葉を返すと、隣に座るよう促す。
しかし彼は首を横に振り、ジュースを飲み干して口を開く。
「疲れてる?」
「うん?まぁ、ね。でも大丈夫だよ」
「そっか。んじゃさ…ちょっと外出ないか?」
外、という時に窓の方へと指を向けて彼は問いかける。
コウは少しだけ悩んだ様子だったが、素直に頷いた。
ラビとは反対側の椅子の上に置いていたコートを羽織り、先に歩き出した彼を追う。
何人かは食堂を出て行く彼女に気付いたようだったが、予想通り誰も引き止めたりはしなかった。
「…とってもスリリングな旅をありがとう」
ぐったりした様子で横たわるコウ。
彼女の隣には誤魔化すように笑うラビが居る。
先に部屋に戻っていたアズを呼びつけるのも気が引けるといった彼女。
そんな彼女を、ラビは自身のイノセンスの能力によって屋根の上に運んだ。
無論、脱兎の如く逃げ出そうとした彼女だが、いつもよりキレが悪かった所為か1メートルと進まずに捕獲される。
半ば強制的に『伸』によって否応無しにスリリングな旅に連れてこられたコウはそれだけで疲れていた。
彼女の隣に腰を下ろし、ラビは夜空を見上げる。
コウが帰ってきたのは夕方。
今となってはすっかり日も落ち、空を支配するのは闇に誘われた星々。
「コウ」
「ん?」
名前を呼ばれてそちらへと視線を向けると、彼は空向けて指を立てている。
それにつられる様に、コウは夜空をその眼に映した。
彼はそれ以上何かを説明するわけでもなく、ただ沈黙に口を閉ざす。
そんな時、視界の中を星が流れた。
「…流れ星…」
呟き終えると同時に一つ、次に彼女が何かを言う前にもう一つだけ星が流れる。
僅か数秒の間に三つの流れ星を見たコウは、驚いた表情でラビを見た。
彼は得意げに笑い、口を開く。
「誕生日プレゼント」
形には残らねぇけど、と彼は笑った。
彼の言うように形として手元に残る物ではない。
しかし、記憶としてそれは確かにコウの中に残った。
プレゼント、と言われたその景色をもう一度見上げ、先程の流れ星を思い出す。
「…ありがとう」
コウの言葉に頷き、彼は彼女と同じようにまた空を見上げた。
眠気に負けるまでに、もう一度流れ星を見る事は出来るだろうか…。
そんな考えがコウの脳裏を過ぎる。
「所で、何で流れ星が見れるってわかったの?」
「ん?じじぃが「毎年この日はいつもより星が流れやすい」って話してたから」
「見れなかったらどうするつもりだったんだか」
「あはは!ダイジョブダイジョブ!俺、運だけはいいからさ!」
「………ま、嬉しかったからいいんだけどね」
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06.04.14