「それにしても、お前はともかくとして…紅と白哉って似てねぇな」
「紅姉さまを呼び捨てにするな!」
「うるせぇって!本人が良いって言ってんだから構わねぇだろうが!!」

耳元でわめくなとルキアを引き剥がす。
深呼吸を二度ほどして気持ちを落ち着かせたルキアは、今度は呆れたような表情を浮かべた。

睡蓮

「姉様と兄様が似ていない?何を馬鹿なことを…」
「お、噂をすれば、だな。おーい!!」
「人の話を聞け!!」

窓の外を通る紅に気付き、一護が大きく手を振った。
後ろで怒鳴るルキアなどお構いなしだ。
彼に気付いた紅は、そのまま進路を変えて彼らの元へと歩いてくる。

「こんにちは、元気そうね」
「おぅ!もうすっかり良くなったぜ!!あんたも元気になったんだな」
「ええ、織姫さんのお蔭で」
「白哉はどうしてるんだ?」
「経過は順調よ。もうすぐ退院できると思うわ」

にこりと穏やかに微笑む彼女は、表情豊かで、やはり白哉には似ていないと思う。
義理の妹だというのだから、ルキアが白哉と似ていないことに疑問はない。
だが、まさか紅まで養子という事はないだろう―――と思う。
うーん、と心中で頭を悩ませる一護。

「姉様は今から兄様のところへ?」
「ええ。一緒に行く?」
「はい!」
「白哉様も喜ぶわ。一護くんもどう?」
「俺?あー…じゃあ、行くか」

もうすぐ帰ることになるし、もう一度くらいは見舞っておくのも悪くない。
少し悩んでから頷いた彼は、紅の笑顔に僅かながら頬を染めた。
スッと視線を逸らして頬を掻く一護を見て、ルキアが紅に気付かれないよう肘鉄を食らわせる。

「じゃあ、行きましょうか」

歩き出す彼女に続いて、一護とルキアも同じように歩き出した。












「白哉様、お身体は如何ですか?」
「悪くはない。心配するな」

病室に顔を出した紅が近付けば、白哉は静かにそう答える。
相変わらず表情が硬いなぁ、なんて考えている一護の隣で、ルキアは嬉しそうに笑っていた。
その理由を問うと、彼女は、わからないのか?と首を傾げる。

「姉様と一緒の時の兄様は穏やかだからな」
「…穏やか、か?」

どちらにせよ、自分にわかるような変化ではない。
一頻り話を終えたらしい紅が、花の入った花瓶を持ち上げて扉の方へと歩いてくる。

「水を替えてくるついでに、卯ノ花隊長に話を聞いてくるわ」
「はい、姉様」
「あぁ。俺たちは暫く居るし…ゆっくりでいいぞ」

あっさりとそう答える一護に、紅は少し驚いたように目を見開く。
そして、やはり綺麗に微笑んだ。

「ありがとう」

そう言い残して病室を出て行く彼女。
それを見送り、二人は白哉の元へと近付く。

「やっぱり似てないな。あんたら二人」
「似ていない?何をわかりきった事を…。ルキアとは血の繋がりはない」

今更だ、と怪訝そうな表情でそう答える白哉に、違うんだ、と首を振る。

「ルキアの事は知ってる。白哉と紅だって」

きょとんとした様子でそう言った一護に、白哉とルキアが瞬きをする。
白哉の呆気に取られた表情など、とてもレアなんじゃないんだろうか、と場違いな感想を抱く。

「一護…貴様、何か勘違いをしていないか?」
「は?何をだよ?」

首を傾げる一護に、白哉は彼の誤解を悟った。
はぁ、と呆れるように溜め息を吐き出し、口を開く。

「紅は私の妻だ。妹ではない」
「………………………………………妻ァ!?」

脳内整理に数秒。
驚きのままに声を上げた一護に、白哉は迷惑そうに眉を顰めた。
これだけ表情が変化すれば、流石の一護でも気付く。
悪い、と一言謝罪してから、改めて彼の言葉を脳内で反芻する。

「あんた、ルキアの姉と結婚してたんじゃなかったのか?」
「紅が私の元へ嫁いだのはその後だ」

現世でも再婚と言う言葉がある以上、尸魂界でも同じ状況があってもおかしくはない。
しかし、妻の死後、こんなに早くに気持ちを入れ替えられるものなのだろうか。
況してや、流魂街育ちであると知りながら妻に迎えるほどに想っていた筈なのに。
その事は口に出すべきではないような気がして、一護は複雑そうな表情で口を噤んだ。
微妙な空気の中、紅が部屋に戻ってくる。
彼女は何かを察したようだが言及はせず、相変わらず柔らかい空気をまとって白哉の元に歩んだ。

「もう一度検査をして、問題がなければ退院できるとのことです」
「そうか」

何事もなかったように答える白哉。
そんな二人を見比べてから、ルキアがぐい、と一護の腕を引いた。

「兄様、あまり無理をしてはお身体に障ります。私たちはこれで」
「あぁ」
「あまり遅くならないようにね、ルキア。それから…またね、一護くん」

紅はその場に留まるようで、ベッドの近くに椅子を運びながら二人に手を振った。
頭を下げてから、頭が追いつかない一護を引っ張って病室を出るルキア。
暫く歩いたところで腕を解放され、とりあえずルキアに続く。

「朽木家は四大貴族の一つ。貴族には、家を繋いでいく責任があるのだ」
「…だから、その責任のために紅と再婚したのか?」

そう言った一護が浮かべた表情は、嫌悪だ。
ルキアは貴族の掟を守るために命を落としかけた。
紅は貴族の責任のために朽木家という箱庭に閉じ込められているのか。
やはり、一護には理解できない世界だった。

「少なくとも、紅姉様は自分が兄様の妻である事を、貴族としての責任だと思っている」

だからこそ、誰にも文句を付けられないような理想の妻であろうと努めている。
その姿がルキアには痛々しく見えた。

「兄様の考えは私にはわからない。だが、姉様を大切にしている事だけは確かだ」
「…紅は、白哉の事…好き、だよな」
「そうでなければ、一度は婚約を破棄された身で、同じ人のところに嫁ぐなどできるものか」
「…白哉が一言伝えてやれば解決するんじゃねぇのか?あんなのを見れば、俺だって気付くってのに」

ルキアを助けて市丸の刀を受けた白哉は、既に血溜まりに伏していた紅を見て激昂した。
動かない身体で声を荒らげた白哉の様子を激昂と表現せずして、どう表現すれば良いのか。
冷静な彼が己の傷を省みず、身体を引き摺った事実を考えれば、紅がどんな存在なのかは火を見るより明らか。
傷を負った身体では藍染に一矢報いる事も、彼女に近付く事もできなかったけれど。
知らないのは、既に意識を失っていた彼女だけだ。

「兄様の中に、ほんの少しでも一護のような単純さがあれば話は変わってきたのだろうな…」
「単純って…本人の前で言うか、普通…」
「とにかく…余計な事は考えるな。あれは二人の問題なのだ。私だって…もう何年も黙っている」
「…そりゃそうだな」

そう頷いてから、ちらりと病室を振り向く。
二人だけの部屋の中で、どんなやり取りがなされているのか。
出来れば、二人の心が少しでも歩み寄ればいいと思う。
しかし、もう何年も変わらない関係が変わるのか―――それは、本人たちですら、わからないことなのだろう。

09.12.07